Auza Wave Packets機能解説〜新次元のファンクション・ジェネレーター〜

はじめに

Auza Wave Packets はモジュレーション・ソースやボイス・モジュールとしても使用可能な多機能、高機能モジュールです。

Auza はこの Wave Packets のみをリリースしている新興のメーカーですが、製品の完成度も高く、多機能でありながらも階層のない直感的なインターフェースを持つなどハードウェア的なデザインセンスも非常に高く感じます。

この Wave Packets は『マルチセグメント・ファンクションジェレーター』という名前になっていますが、イメージとしては『エンベロープと LFO/VCO が混ざり合ったもの』を想像するとわかりやすいでしょう。

類似の製品として Mutable Instruments Stages(廃盤)、Rosssum Control Forge などを思い浮かべますが、Wave Packets はより直感的かつ、様々な CV、オーディオ信号を同時に得られることが魅力です。

今回の記事ではまず機能面の解説を行います。

Auza | Wave Packets(White Panel)

Wave Packetsは、デザインチームAuzaによる最初のユーロラックモジュールです。複雑なエンベロープ、モジュレーション信号とオーディオ信号を生成するこのモジュールは、時間制御可能なモジュレーション信号または「ウェーブパケット」を生成することによって、あなたのサウンドを新たに彫刻します。

・4種のパラメーター

Wave Packets は時間(TIME)、深さ(DEPTH)、周波数(FREQUENCY)、波形(WAVE SHAPE)と4つの重要な要素を持ちます。

1. 時間(TIME)

パネル上部にある4つのノブ(T=TIME)は時間のパラメーターを調整します。

それぞれのセグメント間の時間を調整することで、エンベロープで言うとアタックタイム、ディケイタイム、リリースタイムをそれぞれ設定可能です。

以下に説明する DEPTH のパラメーターと合わせて調整をすることで、一般的とされる形状のエンベロープ(A/D/S/R)、反転したエンベロープやADSR エンベロープでは作成できない変形エンベロープなど様々な形状を作ることができます。このエンベロープの考え方は YAMAHA DX7 のエンベロープの考え方に似ています。DX7 のエンベロープのパラメーターでは RATE にあたります。ただしノブを使用しての調整なので、自分の耳を使いながら良いポイントを見つけることができるのが大きな利点であります。

2. 深さ(DEPTH)

Tノブの下にあるスライダー(D=DEPTH)は深さのパラメーターを調整します。これは振幅、もしくは電圧の高さと言い換えることもできます。

先ほど TIME ノブで設定した移行時間に則り、Dスライダーで設定した電圧の高さまで直線に電圧が変化します。始点と終点は必ず0V から始まります。

DX7 のエンベロープでは LEVEL というパラメーターになるでしょう。こちらもスライダーを使用するのでそれぞれのステージごとの電圧の高さが視覚的に捉えやすいことが大きな魅力です。

ここまでが『エンベロープと LFO(VCO)が混ざり合ったもの』のうちのエンベロープのパラメーターです。

3. 周波数(FREQUENCY)

パネル中央にある3つのノブ(F=FREQUENCY)は各セグメントごとの LFO/VCO の発振周波数を設定するパラメーターです。パネルの色を読みますと、T1は緑、T2、T3は青、T4は紫になっています。またDスライダー周辺の点線も同様に色分けされております。

つまり、緑色のFノブで設定可能な周波数とは、始点からT1の時間の間で発振する LFO/VCO の発振周波数(FREQUENCY)を設定するノブになります。青のFノブはT2からT3に滞在する時間中の発振周波数です。紫のFノブはT4の時間中の発振の周波数、ということになります。

4. 波形(WAVE SHAPE)

これらの発振は波形(WAVE SHAPE)を変更することができます。右下のWノブ(W=WAVE SHAPE)で任意の発振波形を設定、もしくは CV で波形変形が可能です。

のちに説明する5つのアウトのうち、純粋なエンベロープの CV 出力をつなげることで波形のモーフィングするオシレーターのように使うことも可能です。

・5種の出力

そしてWave Packetsは、上記の4種の要素を様々な形で活用した、5種類の出力があります。

オーディオやCV、発振やエンベロープ、共通した要素を持ちながらのバリエーションが出力できるため、複数のモジュレーション先へのソースとしても統一感を持ちながらパッチに新たな刺激をもたらします。

1. エンベロープ

TIME と DEPTH のパラメーターのみを使用した、シンプルなエンベロープ波形を出力します。ADSR エンベロープ、台形、M字型、下降エンベロープが2つ、などこれだけでもさまざまなエンベロープを描くことができます。Wave Packets を動かすトリガータイプは、トリガー入力、ゲート入力(サステイン対応)、サイクルモードと3種類から選択可能です。

2. 0Vとエンベロープの間を発振で埋める

TIME と DEPTH から成るエンベロープと、FREQUENCY と WAVE SHAPE から成る発振の要素が組み合わさります。

LFO レートでの発振エンベロープを VCF のカットオフにパッチするとワブルベースのように、その他、Wave Folder やコンプレックス・オシレーターのFM、AM のアマウントなど音色にまつわるパラメーターにパッチすることで動的かつ攻撃的な音色を作ることができるでしょう。

3. エンベロープと、Depthが最大の場合のエンベロープの間を発振で埋める

これはもう一つの発振エンベロープのバリエーションです。2のエンベロープとは領域が一切かぶらない、という面も興味深いです。

4. エンベロープを最大振幅としたバイポーラ発振

エンベロープの DEPTH によって発振の振幅を制御できる、つまりエンベロープ、VCA を持った VCO/LFO ということになります。Wave Packets の要素が一番に凝縮し、かつ活躍の機会も多い機能でしょう。

発振周波数を可聴域(AUDIO)にした場合はエンベロープで振幅が制御できるシンセボイスになります。

セグメントごとに発振の周波数を設定できるので、例えば周波数がスウィープするバスドラムやクロックに支配されないアルペジオなどさまざまな表現ができるでしょう。

低周波(LFO)で使用した場合はゆっくりと掛かりが強く/早くなる LFO など1台でモジュレーションのアマウントまでを制御できるモジュレーションソースになります。

5. 常に最大振幅での発振

純粋にオシレーターとして、もしくは FM、AM のソースなどにも応用できます。1のエンベロープのように、FとWの2つの発振に関するパラメーターのみを持った出力になります。

エキサイテーション・モード

Wave Packetsにはエキサイテーション・モードの選択によっても全体の挙動が変わります。

トリガー入力/ゲート入力/サイクル

トリガー入力ポジションでは1つのトリガー・パルスが入力されるとWave PacketsのエンベロープがT1, T2, T3, T4と設定した時間で遷移します。サステインのステージはありません。

ゲート入力ポジションの場合、入力しているゲート電圧が高い状態の限りはサステインステージ(T2/T3の電圧レベルを維持)します。

また、トリガー(ゲート)入力ジャックにパッチケーブルを挿入しない場合、サステインステージの状態を常に維持します。そのため、LFOやオフセットDCのソースとしても使用可能です。

 

サイクルモード

サイクルモードの場合は、3つの動作モードがあります。

トリガー入力に何もパッチをしない場合は、T1, T2, T3, T4そしてT1, T2…と無限にサイクルを繰り返します。

トリガー入力にパッチをする場合は、入力しているゲート電圧が高い状態である限りはサイクルを繰り返します。ゲート電圧が下がると停止します。

最後にサイクル・ピン・モードです。パネル中央下部のボタンを押しながらスイッチのポジションをサイクルに切り替えます。サイクル・ピン・モードでは外部のクロックに同期してT1, T2, T3…とステージが遷移します。クロックごとにステージをシーケンスする唯一の方法であり、発振の出力と組み合わせることで単体でアルペジオ・オシレーターのような使い方も可能です。曲の展開にしっかりと同期するため、ダンスミュージック系の方におすすめのモードです。

・より高度な設定内容

以上まで説明をした、4つのパラメーター、5つの出力、そしてエキサイテーション・モードごとによる動きの違いを理解することだけでも十分にWave Packetsの動きを楽しむことができます。ですが、より高度な設定内容を理解することで、複雑な波形を制御可能なものとする道筋が見えてくるでしょう。

発振周波数のグライド

>>のマークがついたノブは各ステージ、セグメント間のF(周波数)をどの程度の時間をかけて変移させるか、つまりグライドと同様の機能を持ちます。

このパラメーターを調整することで、可聴域(AUDIO)でキックドラムを作る場合は高い周波数から低周波までをスウィープさせて、バスドラムを作るなどのアイデアが出てきます。

V/OCT入力、F-SYNC入力

外部からのFパラメーターのコントロールとして V/OCT 入力、F-SYNC 入力があります。

V/OCT 入力はその名前の通りF(周波数)を外部 CV で1V/Oct でコントロール可能です。シンセボイスやオシレーターとして使用する際に大きな効果を発揮するでしょう。

F-SYNC 入力は 発振がLFO モードの場合はテンポシンクのように働きます。F-Sync に入力したクロックをディバイド/マルチプライした周期の LFO になります。それぞれのFノブでディバイド/マルチプライする値を設定可能です。

AUDIO モードの場合は F-SYNC に入力している外部オシレーターの周波数に対して±5オクターブの範囲での周波数を設定できます。つまり外部オシレーターの周波数に追従(シンク)し、かつ各ステージごとに異なる音階にトランスポーズすることが可能です。

トリガー出力

右側には2つのトリガー出力があります。上段は各セグメントが終了するごとに吐き出されるトリガー出力です。簡易なバーストジェネレーターとして、また他のエンベロープやシーケンサーなどをトリガーさせる段階的なトリガーディレイとしてみても良いと思います。

下段はT4が終了し、全てのステージの遷移が完了した際に吐き出されるトリガー(EOC)です。

LINKED LFO MODE

LFO 周波数のモードボタンを長押しすると LINKED LFO MODE ON/OFF が切り替え可能です。

LINKED LFO MODE ではTノブの時間はF(周波数)の周期の倍数の関係で設定されます。これにより各ステージの滞在時間はFノブで設定した周期と時間的にシンクします。

このモードにおいてはオシレーターの発振の周波数が各ステージのマスタークロックになります。オシレーターはV/OCT入力で例えば、….1/4、1/2,等倍,2倍,4倍…と発振周波数を倍数関係で変化させることができますし、F-SYNCと組み合わせることでより外部との同期性の高いモジュレーションソースとして使用することができます。

おわりに

今回の記事ではWave Packetsというモジュールが一体どんな構造、コンセプトを持ったモジュールであるか、その機能を全般的に解説いたしました。

Wave Packetsは自身の持つ時間で各ステージが遷移する通常のモードから、外部のトリガーやクロック、オシレーターに追従するモードまで幅広い使用用途があります。機能全てを覚える必要がなくとも、ほぼ全てのパラメーターはノブやスライダーで操作できるため、直感的に操作をしながら良い音の鳴るポイントを見つけていきましょう。

次回の記事ではより実践的な内容を動画と共に解説いたします。『マルチセグメント・ファンクションジェレーター』そして『コンプレックス波形』をいかにモジュラーシステム内で活用できるかを考えていきます。

Auza | Wave Packets(White Panel)

躍動するエンベロープ。オシレーション。 はじけるエネルギー。圧縮されたオーディオ。
複雑なエンベロープ、モジュレーション信号とオーディオ信号を生成することができるモジュールです。

Auza | Wave Packets(Black Panel)

Wave Packetsは、デザインチームAuzaによる最初のユーロラックモジュールです。複雑なエンベロープ、モジュレーション信号とオーディオ信号を生成するこのモジュールは、時間制御可能なモジュレーション信号または「ウェーブパケット」を生成することによって、あなたのサウンドを新たに彫刻します。