Easel Command 完全解説 ① 成り立ちとそのデザインについて
前回記事はこちら!歴史や基本的なコンセプトの説明をしています。
初めに
前回は Easel Command のパネルのレイアウトとその読み方、全体的なコンセプトについての解説をいたしました。これから第2回と3回に分けて Easel の中の各モジュールを紐解きます。
今回2回目はシーケンサーやエンベロープなど、 CV(コントロール電圧)を作る各モジュールについて解説をします。文章を読み進めるのみですと専門用語が多くイメージしづらいと思いますので、それぞれのトピックごとに動画を作成しました。文章と合わせてご確認ください。動画内には字幕が埋め込まれています。
Easel全体を8つの機能に分類をして順に説明をしていきます。
- Step Sequencer(ステップシーケンサー)
- Random CV Generator(ランダム・ボルテージ・ジェレネーター)
- Envelope Generator(エンベロープ・ジェネレーター)
- Pulser(パルサー)
- Modulation Oscillator(モジュレーション・オシレーター)
- Complex Oscillator(コンプレックス・オシレーター)
- Dual Lo Pass Gate(デュアル・ローパスゲート)
- Preamp/Envelope Detector(プリアンプ/エンベロープ・ディテクター)
1. Step Sequencer(ステップシーケンサー)
機能紹介
トリガーが入力されるごとに 1,2,3,4,5,1,2,3…と順にステップが進みます。スイッチで 3,4,5 と最大ステップ数を切り替え可能です。プログラムカードを使用することで2ステップにも設定可能です。トリガーソースはスイッチでキーボード、パルサーと選択可能です。MIDI や CV/GATE で動かしたい時はキーボードのポジションにします。パルサーをソースにすると Easel Command のみでシーケンスを進めることができます。シーケンサーはトリガー出力と CV 出力を持っています。トグルスイッチはトリガーの ON/OFF を切り替えます。このトリガーでパルサー、エンベロープを動かすことができます。各スライダーでステップごとに出力する CV の大きさを調整します。Easel Commandではシーケンスのラストステップ数をCV操作できるよう機能拡張がありました。(基板上のスイッチで設定可能)
パネルの読み方
青色(水色)で表されています。キーボード入力、もしくはパルサーをトリガーソースとして動作します。pulse sequence スイッチの ON/OFF でエンベロープをトリガーしたり、その下の sequencer voltage levels スライダーでそれぞれのステージの出力 CV の大きさを調整します。パネル上の水色のジャックは全てシーケンサーの CV 出力です。
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Buchla & Tiptop Audio - Model 245t Sequential Voltage Source
ユーロラック・モジュールでは Buchla & TipTop Audio の 245t モジュールは同じく5ステップの CV シーケンサーです。245t は1ステップごとに設定可能な CV が4つあるため、ステップごとの音色的な展開をより複雑にコントロール可能です。
Make Noise - 0-CTRL
0-CTRL は Buchla のステップシーケンサーとタッチキーボードを合体させたようなとてもバランスの良い構成です。Clock ベースではない(タイムベースな)シーケンスは動的なリズムを作ることができます。
2. Random CV Generator(ランダム・ボルテージ・ジェレネーター)
機能紹介
任意のトリガーソースからトリガーが入るごとに新たなランダム電圧を出力します。次のトリガーが入力されるまでは現在の電圧を維持します。4つのランダム CV 出力のジャックは、全てが異なるランダム CV を出力しています。これは Buchla 266 モジュールで使用している擬似乱数のランダム・ボルテージ・ジェネレーターの回路を簡略化したものです。
パネルの読み方
白色で表されています。スイッチでトリガーソースを選択可能です。4つのランダム CV 出力のジャックは、全てが異なるランダム CV を出力しています。
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Doepfer - A-149-1 Quantized/Stored Random Voltages
Doepfer A-149-1 はランダム Buchla 266 の2つのランダムジェネレーターの機能を Doepfer なりにアレンジしたモジュールです。詳細な説明は避けますが、 Quantized の出力は 266t と異なった仕組みで電圧を生成し、よりランダム音階に特化したモジュールになっています。
Make Noise - Richter Wogglebug
Richter Wogglebug は Wiard Synthesizers の Grant Richiter によって設計されました。Wogglebug は Buchla の 265 のランダムモジュールに影響を受けて開発されました。
3. Envelope Generator(エンベロープ・ジェネレーター)
機能紹介
任意のトリガーソースからトリガーが入るごとに、エンベロープが Attack/Sustain/Decay と3つのステージを遷移します。3種類の動作モードが用意されています。
- Sustained は一般的なエンベロープ・ジェネレーターと同様に、MIDI ノートや外部のゲートが ON の間はエンベロープが最大の状態(サステイン)を維持します。ゲートが短い場合でもsustainタイムのパラメーターは有効です。つまりtransientのモードの挙動も兼ねます。
- Transient はサステインのパラメータがサステイン”タイム”をコントロールすることで、Attack/sustain(Hold)/Decay の3ステージのエンベロープとして動作します。ゲートの長さに関わらず、それぞれ3ステージで設定した時間を遷移します。
- Self はトリガー入力がない場合でもエンベロープの動作が終了すると同時にもう一度アタックステージへ繰り返します。台形の形状のループエンベロープを作成できます。
Easel Command はそれぞれのパラメーターを電圧でコントロール可能になりました。ステップ・シーケンサーやランダム電圧でエンベロープタイムをコントロールしますと、より動的な演奏が可能です。
パネルの読み方
朱(オレンジ)色で表されています。スライダーを上に上げるほどそれぞれの時間パラメーターが短くなります。ノブは左に回し切る(例:MOOG)と、スライダーは下に下がると(例:Roland、ARP)と時間が短くなるイメージですが Easel はそれらに対して反対の動きです。Easel は全ての時間操作スライダーが、上にいくほど早く、下にいくほど遅くなります。エンベロープの時間も早く(短く)、オシレーターの周期も早く(周波数が高く)なります。
各スライダーの下にはそれぞれパラメーターの CV 入力ジャックがあります。この CV はスライダーで設定した値に対して追加する(時間を短くする)動きになります。
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281t は Buchla の 200 シリーズモジュールのユーロラック版です。4ch、AD もしくは ASR エンべロープですが、右の OR SUM 機能と Quadrature モードなどを使用してそれぞれのエンベロープを連動させて複雑な CV を作成可能です。
Analogue Systems - RS-510N Synthishaper
RS-510N は EMS SYNTHI A をベースに製作されたモジュールです。HOLD タイムを指定できるエンベロープとして選んでみました。各時間パラメータによって出力される CV にオフセットがかかるなどあまり解説されていませんが独特な動きがあります。
Make Noise - MATHS
MATHS は Buchla ではなく、Serge の DUSG をベースとしたモジュールです。エンベロープとしての機能は似るのですが、出自が異なるため細かな機能を見ていくと設計思想の差異に気付かされます。
4. Pulser(パルサー)
機能紹介
サイクル可能なディケイ・エンベロープ(下降ノコギリ波)です。パルサーという名ですがジャックから出力する CV はパルス信号(トリガー)ではありません。
- Self モードに設定すると下降ノコギリ波の LFO として動作します。この際、period のパラメーターは LFO の周期を設定します。period の時間は CV で操作可能なため、VC LFO のように考えることができます。
- Keyboard/Sequencer のポジションにしますとそれぞれのトリガーによってディケイ・エンベロープとして動作します。ディケイタイムは CV で操作可能なので、パルサーも補助的な VC ディケイとして見ることができます。
エンベロープ・ジェネレーターと同様に sustnd(sustained)と trans(transient)の2つのモードがあります。sustained はサステインつきディケイ・エンベロープになります。
パルサーの内部では period へ到達するごとにトリガーを出力しています。そのため、前述のシーケンサーやランダム、エンベロープのトリガーソースにパルサーを設定しますとそれぞれのトリガーソースとしても機能します。そのため、VC トリガーディレイのような使い方も可能です。
Easel Command では one スイッチでのマニュアルゲート、また off-ext のモードに設定すると period CV 入力が独立した外部トリガー入力になりました。
パネルの読み方
黄色で表されます。エンベロープと同様にスライダーが上に行くほどエンベロープの時間は早くなります。
period のスライダーはパルサーが下降完了するまでの時間、つまりディケイの長さを設定します。period の CV 入力はスライダーで設定した値に対して追加する(時間を短くする)動きになります。
デモンストレーション動画
パルサーでのゲートディレイを利用して2つのオシレーターが互いに鳴ります。Mod OSCとComp OSCで2音色分作り、鳴るタイミングをEaselのシーケンサーで微調整、切り替えています。
パルサーがシーケンサーのクロックソースになっていますが、VCAのエンベロープは0-Ctrlのタッチによって動いています。それにより指一本でアルペジオ的な演奏が可能です。アルペジオの速度は0-Ctrlにタッチするたびランダムに変化します。
おわりに
今回は Easel の左半分の機能、コントロール電圧を生成する各モジュールの解説をしました。Buchla の製品はコンプレックス・オシレーターやローパス・ゲートなどオーディオ的な部分に注目がされがちですが、これらモジュレーションソースの豊富さや柔軟性も演奏性、そしてサウンドに密接に影響をしています。
そして次回は謎の多きコンプレックス・オシレーターやローパス・ゲートなどオーディオ系の解説をします!
Buchla - Easel Command
208C モジュールに MIDI と CV コントロールを備えるデスクトップ・タイプへとアップデートした、スタンドアローンのシンセサイザー
おまけ
Easel のシーケンサーはなぜ最大5ステップなのでしょうか?Buchla のモジュールの歴史を紐解くと、100 シリーズでは8ステップ(model 123)もしくは16ステップ(model 146)の2つがありました。この 100 シリーズはシーケンサーにはクロックが内包されておらず、model 140 Timing Pulse Generator という別のモジュールを必要としました。123 と 140 を組み合わせても最小構成でも3パネル分を必要とします。
200 シリーズになり、シーケンサーは 245 と 246 という2つのモジュールにアップデートされました。245 は5ステップ、246 は16ステップです。それぞれパルサーというクロックソースをパネル左側に内包したため、245 モジュールは2パネルの大きさで最大5ステップになりました。つまりパネルの面積の都合上、5ステップにせざるを得なかったのではないかと筆者は考えております。メロディーを作る(譜面を再現する)ためのシーケンサーとしてはステップ数がいびつ、かつ少ないですが前記事のように電圧ソースやアルペジオのためのシーケンサーとして捉えると5ステップで十分であったという判断があったのと思います。Easel のシーケンサーも同様に、218 Keyboard とセットで使用することを考えると、あまり音程を記録するためのシーケンサーとして想定されていないかったのではないかなと思います。
以降は、248MARF、そして300 /500シリーズ、400/700シリーズと続き、より複雑なデジタル入力、メモリのシーケンス作成と発展して行くこととなります。現行機種の200eシリーズでは内部バスでのシリアル通信による、全モジュールのプリセット管理/MIDIコントロールというモジュラーシンセサイザーのシステムの極致とも言える壮大なコンセプトを実現しています。