Buchla Easel Command 完全解説 ③ オーディオ編

Buchla Easel Command完全解説②CVジェネレーター編

前回記事はこちら!シーケンサーやエンベロープなどCV系の機能モジュールの解説をしています。

はじめに

今回はみなさんが特に関心を持っているであろうコンプレックス・オシレーター、ローパス・ゲート、その他のオーディオ・シグナルにまつわる機能の説明をします。

Buchla - Easel Command

Easel Command(イーゼル・コマンド)は、208C モジュールに MIDI と CV コントロールを備えるデスクトップ・タイプへとアップデートした、スタンドアローンのシンセサイザーです。

西海岸と東海岸

Buchla のシンセシスを説明するにあたり、西海岸(West Coast)式の加算合成方式という言葉があります。それと対に、Moog 的シンセシスに対しては東海岸(East Coast)式の減算合成方式という言葉が使われます。まずはそれぞれの音作りの特徴をまとめてみましょう。

Buchla 的音作りの特徴

オシレーター波形の連続可変、2つのオシレーター同士の変調(AM・FM)、またウェーブ・フォールド回路を使用しての倍音の変化で音を作ります。
それらはコントロール電圧(CV)で変化をつけることが可能です。音色変化にまつわる多くのパラメーターが電圧操作可能な設計になっています。これらパラメーターの変化で倍音の多い→少ないなど音色操作をします。
ローパスゲートは倍音成分を削ること(レゾナンスなしのVCF)と音量変化(VCA)のみを機能としています。
譜面の再現や楽器の音の再現よりも、非具象的な音作りを得意とします。

Moog 的音作りの特徴

複数のオシレーターの出力をミキサーで混ぜます。低音は三角波、2オクターブ上で鋸波、などこの段階での音作りがすでに音色のイメージを決定づけます。
オシレーターの周波数がオクターブで切り替え可能なため、それぞれの周波数の関係が音楽的にバランスが良い状態でミックスされることが多いです。
音色の時間的な変化は主に VCF や VCA で行われます。VCF にはレゾナンスの機能があるため、倍音成分をカットするだけでなく、特定の帯域に付加することも可能です。
12音階の譜面の再現、実在の楽器や音の再現がしやすいです。入力インターフェースも12音音階の鍵盤であることが多いです。

5. Modulation Oscillator(モジュレーション・オシレーター)

機能紹介

ModOSC はモジュレーション用途としても使用可能なオシレーターです。三角波のオシレーター・コアを元に内部で複数の波形を作っています。

左下の KEYBOARD INPUTS に入力した CV を内部結線するための keyboard ON/OFF トグルスイッチ、また周波数の高/低切り替えスイッチが付いています。これにより、218 や MIDI/CV によるピッチコントロール、また VCO/LFO レートの切り替えが可能です。

ノコギリ波、矩形波、三角波と3つの波形をトグルスイッチにて切り替え可能です。Modulation のスライダーを上げることで CompOSC へのモジュレーション量が大きくなっていきます。モジュレーションの挙動に関しては後述します。

ローパス・ゲートの2ch側の入力に内部結線されているので、周波数切り替えスイッチをHighに設定しキーボードのCV入力をONにすることで、デュオフォニック(2声)の演奏もできます。

Easel Commandでの機能拡張点

MIDI ch.3 で受信したノートを使用して Mod OSC のピッチを独立してコントロール可能です。

FMin が追加されており、ModOSC も外部ソースや CompOSC で FM 可能になりました。

modOSC の単独出力があります。

トリマー付きの modOSC の pitchCV 入力が追加されました。シーケンサーの CV 出力と隣接し、かつトリマーがあるためシーケンサーによるトランスポーズの可変幅を自身で調整可能です

Modulation パラメーターはMIDI CC #2 でコントロール可能です。

6. Complex Oscillator(コンプレックス・オシレーター)

機能紹介

CompOSC はメインのオシレーターとして働き、ModOSC による変調や Timbre によって複雑かつ動的な音色変化を得意とします。三角波のオシレーター・コアを元に内部で複数の波形を作っています。サイン波、パルス波、矩形波、そしてコアの三角波を使用できます。
このサイン波は Timbre と名付けられたウェーブ・フォールド回路を通り、波形を折りたたむことで倍音を増やします。Timbre のパラメーターが上がると、2倍、4倍、8倍と2の乗数の周波数成分が増していき、基音のサイン波の成分は減っていきます。

この2の乗数の成分が増える、というのはピッチの関係で考えるとオクターブ上の倍音成分が増えていくことになります。この Timbre パラメーターをエンベロープで操作すると、フィルターのカットオフとレゾナンスが同時に操作されているような音になります。Timbre の値が大きいと、カットオフとレゾナンスが上がっており派手な音に、Timbre が下がるとカットオフもレゾナンスも閉じてサイン波になるイメージです。つまりローパス・フィルターの逆の動作(基音のみ→倍音が増える)をします。この見方で Timbre のパラメーターを捉えると、自分が音作りで何をすべきかがイメージしやすくなると思います。Timbre を通った信号は、Waveshape ノブを操作することで三角波、矩形波、パルス波から選択した任意の波形とミックスし、後述のローパス・ゲートの入力に接続されます。

パルス波や矩形波とミックスすることで奇数次倍音の成分や、ある種シンセ的音色を混ぜてやることができます。パルス波はその他アナログシンセで一般的なパルス幅変調で得たものとは異なり、特徴的な響きを持ちます。

Easel Commandでの機能拡張点

WaveShape ノブが電圧コントロールできるようになりました。

CompOSC の単独出力があります。

MIDI ch.2 で受信したノートを使用して Mod OSC のピッチを独立してコントロール可能です。

Timbre パラメーターはMIDICC#1 でコントロール可能です。

モジュレーションの種類について

AM(Amplitide Modulation、振幅変調)

ModOSC がモジュレーターとなり、CompOSC ユニットの出力をモジュレーション(変調)します。
ModOSC が三角波かつ LFO のモードで AM をかけるとトレモロのような音、矩形波であれば少しグリッチがかった音になりまた面白いです。

VCO モードで AM をかけると CompOSC の音に新たな響きを与えます。ModOSC の周波数をうまく合わせると膜系の打楽器のような響きを加えることができ Buchla Bongo 的パーカッションの音色になります。

AM と名付いていますが、Modulation の値がある一定を超えると位相が反転して出力されます。つまり実際の挙動としてはバランスド(リング)変調になっていることにも注目しましょう。

FM(Frequency Modulation・周波数変調)

LFO のレートで FM をかけると三角波ではビブラート、矩形波ではトリルのようになります。深くかけていくと FM であればサイレンマシンのような効果音作りが可能です。VCO のレートで FM をかけると基音を残しながらサイドバンドの音が増えていきます。リニア FM の周波数変調なので基音のバランスを崩さずに上下に対称なサイドバンドが広がります。このバンドの広がりを見ると、先ほどの振幅変調と周波数変調それぞれで生まれるスペクトラム変化に近似性があることがわかります。また、リニア FM の持つ基音が移動しないという特性についても感じることができると思います。

お持ちのソフトやハードウェアのシンセを使用して AM やFM の挙動がどのようなものなのか、Easel の内部ルーティングを再現するにはどうすればよいか考え、実験してみましょう。
ModOSC から CompOSC への変調の深さは Modulation Amount でコントロールできます。ここは電圧操作ができるので、つまり VCA が入っています。この VCA はバクトロールを使用しているので、後述のローパスゲートと同様に僅かに反応速度が遅いです。AM の挙動も Amount を最大にしても完全に対象な状態にはなりません。
そのほかの厳密な挙動のクセ、パネルを読むだけでは再現できない挙動たちを全部再現しようとすると・・・楽しい試みですがとても遠回りな方法であることは間違い無いです。

ただし自分のシンセを理解するための実験というのはとても楽しいものなので、お持ちのモジュールやシンセでぜひ様々な実験を行ってみてください。

波形で AM、FM それぞれのモジュレーションの状態を確認しています。AM では水色の ModOSC によって緑色の CompOSC の振幅が、FM ではサイクルの疎密(周波数)が変化していることを確認できます。

スペクトラムで AM、FM それぞれの状態を確認しています。低周波の FM では基音の移動が見えます。高周波の FM ではサイドバンドのすそ野が多段かつ均等に広がることがわかります。AM では上下対称に1段のみあります。これはリングモジュレーターで説明される「周波数の和と差」の部分です。

関連製品

・オシレーター

Make Noise - 0-Coast

East Coast(東海岸)スタイルのシンセサイザーや West Coast(西海岸)スタイルのシンセサイザーから影響を受けつつも、そのどちらでもない「No Coast」スタイルのシンセサイザーです。ウェーブフォールドを使用した波形変調やランダム、エンベロープタイプの電圧操作など西海岸シンセのみならずパッチシンセの入門におすすめ。

Make Noise - DPO

Buchla 259 をもとに Make Noise の独自アレンジが入ったモジュールです。Buchla 259 は Easel よりもより複雑かつ多くのパラメーターをマニュアル、CV 操作可能なコンプレックス・オシレーターです。

Make Noise - XPO

同社の最新のオシレーターモジュール XPO は、これら Buchla の波形変調による音色変化をステレオ・フィールドに拡張した Make Noise の意欲作です。左右で異なる波形モジュレーションを行えるため、より空間的な表現を得意とします。

Buchla & Tiptop Audio - Model 258t Dual Oscillator

Buchla 258をベースにしたユーロラックバージョンのデュアルオシレーターです。波形の連続可変をマニュアル、もしくは CV で操作可能。片方をモジュレーションオシレーターにして片方の FM 入力にパッチすると単体でもメタリックなシンセ音を作れます。FM の結線の間に VCA を挟むと時間的な変化も加えることができて◎です。

Doepfer - A-137-1 VC Wave Multiplier

特にパラメーターの数が多く、それぞれにCV入力も用意されています。ウェーブ・フォールドを利用した時間的な変化をつけるにはとても面白いモジュールです。

Tiptop Audio - Fold Processor

2つのパラメータを持つウェーブ・フォールドと、その出力がサブオクターブ・ディバイダに接続されています。

7. Dual Lo Pass Gate(デュアル・ローパスゲート)

機能紹介

Buchla、西海岸シンセの代名詞的な機能モジュールです。
ローパスゲートは VCF 兼 VCA としての働きを持ちます。つまり入力するコントロール電圧の大きさによって、音の明るさと音量が同時に変化をします。3種のモードがあり、lo pass filter が一番にフィルタリングの効果が強く、Voltage Controlled Amp はフィルタリングはせずに音量操作のみを行います。Combination はその中間の響きです。
入力電圧が大きいと音色は明るく、同時に出力へ通過する音量は大きくなります。入力電圧が小さくなるにつれてフィルターカットオフが同時に下がり、音が暗く、小さくなっていきます。

バクトロール(フォトカプラ)という部品を使用しており、この部品の特性によって自然な音色変化を特徴とします。この部品は反応速度が鈍いため、短いパルスを入力した場合でも自然なディケイ・エンベロープを描くレスポンスがあります。これはブックラ・ボンゴという名で知られており、Buchla の音を象徴するパーカッシブな響きを特徴とします。

それぞれのモードごとにバクトロール由来のディケイタイムも異なるので、目指す音色ごとにモードの使い分けをすると良いです。習慣的に Lo Pass や Combination にしがちなのですが、実は Voltage Controlled Amp のモードが求めいていた音色にはバッチリだった!ということがたまにあります。

Easel には2機のローパスゲートが搭載されており、gate 1 は CompOSC の信号が内部接続されています。gate 2 は後述する外部入力、ModOSC、gate1 の出力と3種のソースを選択できます。

Easel Commandの機能拡張点

gate 1 in の音声入力が追加されています。入力レベルのトリマーも追加されているため、ユーロラックのオシレーターの信号など多様な機器に対応しています。

gate 2 out の音声出力ジャックが追加されています。単独でエフェクトをかけたい時など有効でしょう。

関連商品

ユーロラックでは以下の製品がバクトロールを使用したローパスゲートモジュールです。
Buchla TipTop Audio 292t も今後の発売を予定しております。

Doepfer - A-101-2 Vactrol Low Pass Gate

Buchla 292 にインスパイアされたバクトロール・ベースのローパス・フィルター/VCA です。レゾナンスのパラメーターが追加されており、またモード切り替えがスイッチ、もしくは電圧操作可能です。

Make Noise - LxD

異なるフィルター特性を搭載したコンパクトなデュアル・ローパスゲートです。Lo Pass のモードとCombinationのモードで2ch 分あります。Strike 入力はゲートを入力するだけでパーカッシブな Buchla Bongo の音が作れます。

Make Noise - Optomix

2ch 分のローパスゲート・モジュールです。同じく Strike 入力があり、また DAMP というダッキング用の入力があります。オーディオでの入力にも対応しており、サイドチェインコンプとしても働きます。2ch の VCA ミキサーとしての機能やエンベロープとして使えるなど用途とシチュエーションに合わせて柔軟な使い方ができるのが魅力です。

8. Preamp/Envelope Detector(プリアンプ/エンベロープ・ディテクター)

外部の音を入力可能です。増幅(アンプ)の機能もあるため、シンセ以外の音(例:ギター、ボーカル、ドラムマシン、ラジオ)をEasel に混ぜる、加工することができます。
env out の出力からは入力した信号の音量の大小で変化する CV を出力します。その他機材ではエンベロープ・フォロワーと呼ばれることの多い機能です。
先の話に戻りますが、モジュレーション・オシレーターセクションに bal.ext というポジションがあります。
これはプリアンプに入力した信号に対して、ModOSC でバランスド変調(リング・モジュレーション)を行うことができます。バランスド変調は実質的にはAMの亜種なので、ModOSC 外部の信号に対して AM、バランスド(リング)変調をかけるモードであります。

結果として、外部から入力した音に異なるピッチ感を持たせる、変調するなどのより実験的な音作りが可能になります。
このことから Music Easel は完結したシンセサイザーとしてだけではなく、外部の音声信号に変調をかけることのできる、つまり運搬可能である統合された音楽制作機材を想定していたと捉えることもできます。
ARP 2600(1971)、EMS SYNTHI AKS(1972)も同様のコンセプトを感じ取ることができます。
1970年代の初頭にこれら名機として呼ばれるセミモジュラー・タイプの楽器たちが続けて開発されたことはとても興味深い事象です。

Easel Commandでの機能拡張点

Preamp 入力へのパッチがない場合は Buchla 266 と同等のホワイトノイズ・ジェネレーターが内部結線されています。そのため単体で使用する場合においても Gate2 のオーディオソースがノイズと ModOSC と2つの選択肢を持ちます。

デモンストレーション

ノイズを利用してドラム系の音を作ります。シーケンサーの CV でパルサーの速度をコントロールしているため、ブレつつも周期的なリズムが作れます。

Rhodes ピアノの音を Command の Preamp に入力しています。Mod OSC の矩形波での低速 AM、また LPG でも音量が変化し、エフェクトを使わずともグリッチな効果を与えます。

Buchla - Easel Command

Easel Command(イーゼル・コマンド)は、208C モジュールに MIDI と CV コントロールを備えるデスクトップ・タイプへとアップデートした、スタンドアローンのシンセサイザーです。

おわりに

以上、3回の記事にかけて Buchla Easel Command の解説を行いました。早足に全体像の説明をしていきましたが、シンセの構造が理解できるということとそのシンセを使って良い音が出せる、というのは別のものであり、またそれは両立可能なものであると思っています。

電子楽器に対する理解が深まるというのは自分の持っている楽器を使うためにも欠かせないことであり、少しずつ理解が深まってこそより楽器と仲良くなれるのではないかと考えています。

この記事で皆様のシンセライフがより豊かなものになりますと幸いです。

Buchla Easel Command 完全解説 ② CVジェネレーター編

前回記事はこちら!シーケンサーやエンベロープなどCV系の機能モジュールの解説をしています。