こんにちは!Five G スタッフMです!
何回かに分けてユーロラック・モジュラーシンセ初心者の方を対象に、なるべく分かりやすくユーロラック・モジュラーシンセの基本的な知識や使い方を解説していきたいと思います。
モジュラーシンセは当店の人気商品カテゴリーの一つで、毎日色んなお客様にモジュールや関連商品をお買い上げいただいています。どれくらい人気かというと、私が Five G へ入った6年前と比べて取扱いモジュールの種類が2倍以上に、取扱いメーカーの数が3社から20社以上に、Five G 名物の「モジュラーの壁」は面積が3倍以上に拡張する程です!モジュラーシンセ自体、1990年代の頃から Doepfer などいくつかのメーカーが生産しており歴史は古いのですが、ここ数年の異常とも言える世界的な盛り上がりは本当に凄いものです!!!
それに伴いここ数年、Five G 店頭に「モジュラーシンセを始めたいんですけど、どうすればいいでしょう?」というお客様が沢山いらっしゃいます。
世界中で人気のトップアーティストも続々とモジュラーシンセを導入し始め、そんなアーティスト達の SNS や演奏動画などでモジュラーシンセに興味を持たれる方も多いと思います。「凄いアーティストが使うから」「見た目が複雑そうだから」そういった印象からどうしても「難しい」「敷居が高い」と思われがちです。しかし実はそうでもありません。
例えば料理をする上で必要な物と言えば、包丁、まな板、鍋、フライパンなど数多くの道具があります。
世界中に料理をする人はたくさんいますが、作りたい料理ごとにレシピがあり、これらの道具の使い方を一つずつ覚えてスキルアップしていきます。
モジュラーシンセも料理と同じで、どんな音を出したいか、どんな事をしたいかという目的に合わせて、道具の使い方を覚えて少しずつスキルアップしていけば良いんです。一つずつしっかり覚えて行けば決して難しい物ではありません。
このエントリーをご覧頂いている方は「モジュラーシンセを演奏したい」という目的があると思います。始めるために必要な物など、基本的な事を順番に学んで行きましょう!
モジュラーシンセを始めるために必要な物
モジュラーシンセの構成は「家と土地」の関係に例えると分かりやすいです。家を建てたいけど、まず家を建てるための土地がなければ家を建てる事ができないので何も始まりませんよね。モジュラーシンセも同じ様にただモジュールだけを買っても音を出す事ができません。
モジュラーシンセに於いて「土地」となるのが下記に説明する「電源とケース」「パッチケーブル」「モニター」です。これらをそろえてはじめて「家 = モジュールを組み合わせたシステム」が構築できるというワケです。
電源とケース
モジュラーシンセには専用の電源が必要です。各社から様々なモジュラー用電源が発売されており、モジュールを電源に接続し、コンセントに繋ぐ事で初めて動作します。モジュールを買っても直接コンセントに繋いで動作させる事はできません。(Roland AIRAモジュラーシリーズなど一部例外はあります。)
これから始めるのであれば「電源付きのモジュラーシンセ用ケース」がオススメです。
とりあえず3Uラックサイズ(84HP)の物があればシンセサイザーとして機能する一通りのモジュールをマウントできると思います。
最も低コストで始めるなら
初期費用を安く抑えたいなら Tiptop Audio Happy Ending Kit がオススメ。モジュラーシンセをマウントする簡易的なフレームと電源モジュールのセットです。モジュールの裏の基板や配線がむき出しになるので取扱いには少々注意が必要です。ラックマウントケースにマウントするかサイズが合う箱に入れると安心です。
据え置きで使用する
据え置きで使用するならしっかりと箱状になっているケースやラックマウントできるケースがオススメ。
日本の工場で生産している Made in Japan のケース。dotRed Audio Designs WORKFRAME 84-B。お求めやすい価格ながら細部まで非常に丁寧な作りで安心して使えます。当店で非常にたくさん売れている、最初に選ぶモジュラーシンセ用ケースの定番です。
このシリーズはカバーがセットになったWORKFRAME 84-M、ラックマウント・イアーがセットになったWORKFRAME 84-Rと充実のラインナップ。どれもオススメです。オプションは単品でも販売しているので、WORKFRAME 84-B のみ最初に買っても、後でカバーやラックマウント・イアーや2台連結キットを追加して自分好みにカスタマイズできます。
最大で 104HP x2段 = 208HP ものモジュールをマウントできる Tiptop Audio Mantis。低価格を実現するためにボディはプラスチック製ですが、素材を活かしたスマートで美しいデザインが特徴。電源容量は余裕の合計3Aで余程の事がない限り電流不足で困ることは無いでしょう。ケースの奥行きは浅めなのでマウントしたいモジュールの奥行きをチェックしましょう。ちなみに Mantis はカマキリという意味です。本体を立たせるためのサポートレッグがカマキリっぽい?
ラックマウントタイプのケースよりも横幅が長い Make Noise Skiff。適度な重さのあるケースでパッチング時に安定感があります。スリムなサイズを実現する反面、バスボードのコネクタが横向きで少々抜き差しがしにくいです。ケースの奥行きは浅めなのでマウントしたいモジュールの奥行きをチェックしましょう。
合板でできた安価なケース Doepfer A-100 LC6。表面は合板そのままのローコスト仕様。オイルステインなどを使って自分で塗装するのもアリ?同じサイズで表面にヴィンテージシンセのようなレザー風シートが貼ってある LC6V (Vはヴィンテージの意味)もあります。
スタジオやライブへ気軽に持ち出したい
フタ付きで少々大きめな 84HP x3 段、中規模なシステムが組めてハンドル付きの Doepfer A-100 P9。
先述の dotRed Audio Designs の WORKFRAME-84 x2台に連結キットとカバーがセットになったWORKFRAME 168-NAとその限定カラーのWORKFRAME 168-MW。連結キットがハンドルになるので持ち運び可能です。
シンセメーカー大手 Arturia のRackBrute 3UとRackBrute 6U。それぞれ88HP、176HPのモジュールをマウントできるケースです。標準で付属している連結キット兼ハンドルを使用して、RackBrute 同士や MiniBrute2/MiniBrute2Sと連結する事が可能!ハンドルはスポンジで覆われており、持った時の手への負担が少なめです。オプションのトラベルバッグを使用すれば持ち運びも安心。運搬時にモジュールのパネル面を傷つけないスペーサーを内蔵しています。
大きめのシステムを組みたい
「オレ、絶対モジュラーシンセにハマっちゃうな!」という確信がある方は、始めから大きめのケースをご購入される事をオススメします!システムが大きくなると、いずれ小さめのケースから買い替える事になるので、ご予算の許す限り最初から大きめのケースにしておいた方がお得です。
その大きさはまさにモンスター!大きさも電源容量も最強クラスの Doepfer ポータブル・モンスターケース、A-100 PMS-12。かなり大きいですがフタをして持ち運び可能です。
工作の腕に自信があれば自作という手も…
電源の自作は電気知識と工作に長けた方ならアリです。しかし自作する程の電気知識が無い、作る自信が無い場合は手を出すのは危険です。素直に出来合いの電源を買った方がリスクが無く時間もお金も有効に使えます。
ケースの自作は電源に比べれば敷居は低いです。ホームセンターで木の板を買ってきて切ってネジで組み立てたり、エフェクターケースや旅行用のスーツケースなどにレールを設置したり様々な方法が考えられます。自分でケースを作れば苦労した分、達成感や愛着もひとしお。しかしそれだけ手間と時間がかかります。一刻も早くモジュラーシンセで音を出したい!という方は電源付きケースを買いましょう。
ちなみにケースを自作した場合のオススメ電源はこちらです!
定番の Tiptop Audio Happy Ending Kit に搭載されている電源「Micro Zeus」。フライング・バスケーブル付きなのでACアダプターとモジュールを繋ぐだけですぐに使えます。
dotRed Audio Designs WORKFRAME 84シリーズ に搭載されている高品質電源POWER BASEとPOWER RAIL、その2つがセットになったPOWER KIT。安定した電源により音質の向上が期待できます。
同じく日本のメーカーの Hikari Instruments Hikari Instruments EURO RACK用 5bus 電源キット。非常にコンパクトで最大5台のモジュールに電源を供給できます。
パッチケーブル
モジュラーシンセ同士を接続するパッチケーブルが必要です。当店では Five G オリジナル商品の G-Works パッチケーブルが定番です。1〜2段くらいのシステムであれば 15cm〜70cm の物が10本〜15本くらいあればだいたい間に合うと思います。15cm の物は隣同士のジャック、モジュールを接続するのに使用します。配線がスッキリしますがあまり遠くのジャック同士を接続できません。よく使うのはやっぱり 30cm か 50cm ですね。Five G でも一番良く売れている長さです。
3段以上のシステムや、2つのケースを跨ぐ場合、エフェクターやシーケンサーなど他の機材と接続する場合は 90cm〜150cm の物がオススメです。
信号を分岐させる事ができる便利なパッチケーブル、Tiptop Audio Stackable Cable シリーズもあります。詳しく紹介したエントリーもありますのでご覧下さい。
モニター
最後はスピーカーやヘッドフォンなど、音を聴くための装置や環境が必要です。
モジュラーシンセサイザーは音を出力するための「オーディオ出力」「ヘッドフォン出力」といったジャックが始めから用意されていません。ユーザーがパッチングした音が出るジャックから音を出します。
既にミキサーやモニタースピーカーなど、音を出す環境が揃っている方は音が出るジャックからミキサーへ繋げばOKです。
お持ちでなければ最低限スピーカーかヘッドフォンが必要になります。しかしモジュラーシンセは意図しない大音量を出す事が多く、音量調整をしないままスピーカーやヘッドフォンへ繋ぐのはとても危険なので、「ミキサーモジュール」「アッテネーターモジュール」「ヘッドフォン出力付きモジュール」「単体のミキサー」などを用意し、音量を調整してからモニターする様にして下さい。音量を調整しないとスピーカーやヘッドフォンが故障するばかりか、最悪あなたの聴覚に悪影響を与える恐れがあります。くれぐれも音量には十分に注意して下さい。
ユーロラック・モジュールを選ぶ
ユーロラックを始める下準備ができたら、今度はモジュールを選びましょう。モジュールを選ぶ上で気をつけなければいけない3大項目「幅」「奥行き」「消費電流」についてご説明します。全てのユーロラック・モジュール、ケース、電源にはスペック欄にこれらの項目があるので、スペックを見ながら所有するケースに収まる様にモジュールを選びます。
幅 (HP)
モジュールやケースの横幅です。「HP」というユーロラック特有の単位で表されています。1HP = 5.08mm (0.2インチ) で、各メーカーこのサイズに沿って設計しています。参考までに、19インチラックにマウントできるスタンダードなケースのサイズが 84HP です。84HP サイズのケースで、平均するとだいたい 10 台くらいのモジュールをマウントできます。
奥行き (Depth)
「パネル裏面からモジュールの一番奥までの長さ」です。ケースにも奥行きがありますので、ケース内に収まる様にモジュールを選びましょう。スペック上はOKでも、バスケーブルやバスボードが干渉してマウントできない事もありますので注意して下さい。
消費電流 (Current)
モジュールが消費する電流です。「このモジュールはどのくらいのエネルギーを使うか」の目安となる数字です。単位は mA (ミリ・アンペア)で表記されています。消費電流には「+12V」「-12V」「+5V」の3種類があり、ほとんどのモジュールが+12Vと-12Vを消費します。
消費電流の合計が「電源の最大出力電流」を上回らない様に注意して下さい。
+12V : 720 mA
-12V : 190 mA
【電源の最大出力電流】
+12V : 1000 mA
-12V : 500 mA
+12V、-12V 共に電源の最大出力電流内に収まっているのでOK。
消費電流が足りないと音にノイズが乗ったり、デジタル系モジュールだと起動しなかったり、挙動がおかしくなったりします。また消費電流が足りないと故障の原因となる事もありますのでご注意下さい。
モジュールの消費電流は電源を入れてからの時間や使い方により常に変動します。電源の最大出力電流ギリギリではなく、なるべく余裕をもってシステムを組むのがオススメです。
一部のデジタル系モジュールが消費する +5V
+5V は一部のデジタル系モジュールを動作させるためにあります。電源によってはこの+5Vを出力しない物もあります。この様なケースには Doepfer AD-5 や Mutable Instruments Volts など「+5V レギュレーター」を接続する事で +5V の電源を供給できる様になります。
しかしユーザーにとって一部のモジュールのみが消費する +5V まで気にするのはとても面倒な事です。最近は各メーカーの +5V を使用していたモジュールが次々とマイナーチェンジし、+5V の分を +12V でまかなう様にして +5V を使わなくなってきている傾向にあります。
「パッシブ」タイプのモジュール
マルチプルやアッテネーターなど、一部のモジュールは電源に接続しなくても機能する「パッシブ」タイプの物もあります。スペック上の電流の表記は+12V, -12V とも 0mA となっています。
厳密に言うとユーロラックではない? Analogue Systems
Five G が取り扱っているモジュラーシンセメーカーの中で、1社のみユーロラックの規格から少々外れている「Analogue Systems」というメーカーがあります。EMS というメーカーの正規ライセンスの下に生産されている、伝説のヴィンテージ・シンセサイザー「EMS Synthi」のモジュールを始めとした、人気のラインナップを誇っています。
Analogue Systems のモジュールとケースには以下の様な特長がありますが、それぞれをクリアすれば他のユーロラック・モジュールと同等に扱う事ができます。
モジュールのネジ穴の位置が 0.5HP ズレている
バーナットタイプのケースへユーロラック規格モジュールをマウントし、その隣に Analogue Systems のモジュールをマウントすると 0.5HP の隙間ができます。気にしないのであればダイジョブですが、この隙間を埋めたい場合は Doepfer の1.5HPサイズの Blind Plate を使用して下さい。
電源コネクタの形状が特殊
ユーロラック規格のモジュールであればモジュールから伸びているバスケーブル側のコネクタがメス、電源側がオスです。しかし Analogue Systems はオスメスが逆で、しかもピンの配列が全く違います。しかしご安心を!この特殊なコネクタを変換する「AS-DO (アズ-ドゥ)」というアイテムがあるので、モジュールごとにこの AS-DO を使用して変換してあげればOKです。
ユーロラック・モジュール取扱いの基礎
モジュールをマウントしよう!
さぁ、今度はいよいよモジュールをケースにマウントしてみましょう!
モジュールをケースへネジ止めする際にプラスドライバーが必要なのでご用意下さい。
その前に!モジュールをマウントする際は電源を切っておきます。電源を入れたままマウント作業を行うのはショートなどの恐れがあるため大変危険です。
1.モジュールとバスケーブルを繋ぐ
まずはモジュールに付属のバスケーブルをモジュールへ接続します。モジュールの電源コネクタは周囲に「-12V」「Red Stripe」「太いライン」など目印があるので、バスケーブルの赤いライン(メーカーによっては青など他の色もあります)をこれらの印に合わせて接続します。昔の Doepfer モジュールなど、これらの表記が無い物もありますので、その場合はだいたい「モジュールを垂直にして、下方向が-12V」です。これらの表記が無い場合は買ったお店に問い合わせたり、メーカーの商品ページ、サポートページなどでよく確認してください。
電源コネクタに似た拡張コネクタを持つモジュールもあるので間違えない様に注意して下さい。
出荷時にモジュールとバスケーブルが分かれている製品と、予めモジュールにバスケーブルが繋がっている製品があります。繋がっている製品は出荷前に動作チェックをしているので間違った接続のまま出荷される事はほとんどありませんが、気になる方は一度接続を確認して下さい。
2.バスケーブルと電源を繋ぐ
今度はバスケーブルと電源を接続しましょう。電源コネクタが縦方向に付いている場合、下が -12V なのでバスケーブルの赤いラインと -12V を合わせて差し込みます。電源コネクタが横方向などに付いている場合は -12V などの表記があるので、-12V と赤いラインを合わせて差し込みます。
コネクタに枠がある電源の場合、バスケーブルの突起とコネクタの枠の凹みが合わさる様になっているので、差し間違えの心配がありません。Doepfer などのケースの場合、この枠が無いのでズレた状態で簡単に差し込まれてしまいます。ご注意下さい。
3.ネジで止める
モジュールを電源に正しく繋いだらプラスドライバーを使ってレールにしっかりとネジ止めしましょう。ほとんどのモジュールにはネジが付属しているので、それを使用すると良いでしょう。
一つのモジュールだけしっかりとネジ止めしてしまうと、他のモジュールをネジ止めする際にネジ穴が合わなかったりしてなかなか大変です。まず、マウントするモジュールを一通り緩めに止めてから、最後に全てのモジュールをしっかりと止める様にすると楽です。
ユーロラックではM3というサイズのネジが一般的ですが、Analogue Systems や Make Noise など一部のメーカーのケースは M2.5 という少々細いネジを採用している物もあります。
ネジを無くしてしまう事も多いので、ヘビーユーザーになると予備のネジを別に購入してストックする方もいます。また見た目にこだわる方はモジュールやケースの色に合わせて、一般的な銀色のネジの他に黒いネジを使用する事もあります。
あると便利な電動ドライバー
モジュールが多くなってくるとモジュールの入れ替えが頻繁に起こるもの。ドライバーでたくさんのネジを止めたり緩めたりしてるとモジュラーで遊ぶ前に疲れてしまいますよね。そんな時にあると便利なのが電動ドライバー!腱鞘炎とは無縁の快適モジュラーライフを送る事ができる、オススメアイテムです。
繋ぎ方を間違えると…
繋ぎ方を間違えたまま電源を入れると高確率で壊れます。運が良くて繋ぎ方を間違えたモジュールだけ壊れる場合、最悪の場合は他のモジュールや電源まで巻き込む事もあります。モジュールをマウントする際は細心の注意を払って作業して下さい。モジュールが壊れた時のコンデンサーや抵抗が焼ける匂いは最悪です。ちょいとしたトラウマになります…。
ケーブルを繋ぐ方向が分からない場合など何か気になる点がございましたらお気軽に Five G までお問い合わせ下さい。
いかがでしたか?ちょっと長くなりましたが、今回はユーロラック・モジュラーシンセを導入する上での基本的な知識のご紹介でした。
まだあまり楽しくないかもしれませんが、次回から具体的なパッチングの方法やモジュール選びなどのお話ができればと思います。
ご来店が可能な方はぜひ、Five G の店頭へ遊びにお越し下さい。モジュラーの壁はいじり放題!私も手が空いていましたら色々とご説明いたします。
↓↓↓続きはこちらの記事へ!↓↓↓
【初心者のためのユーロラック・モジュラーシンセ入門講座 Vol.2】モジュラーシンセを始める4つの買い方