スケール?オフセット?CVユーティリティの用語について

はじめに

今回の記事ではCVユーティリティモジュールの用語とそれぞれの動作について、用例も交えながら解説をします。

これから説明していく機能はモジュール自身に内包されていることが基本でありますが、近年の省スペース、高機能化の流れでパネルレイアウトの都合により省略されている場合があります。そのため、モジュラーシンセを使用していても電圧の高い/低いとそれによる動作の変化というのがイメージしづらい状況になってきているのではないかと思います。

そしてブランドが増えるにつれ、モジュールの入出力電圧の範囲が製品により異なることが当たり前のようになっている状況です。この入出力電圧の範囲が揃っていない状態でパッチをしても頭の中で想定していた挙動と異なり違和感を抱える場合があります。

電圧の高低によりシンセの各パラメーターを操作するというのはMOOGとBuchlaがモジュラーシンセサイザーを生み出した時より今現在も変わらず基本となるルールです。モジュラーシンセのみならず鍵盤式のシンセサイザーにおいても内部では電圧の高低を利用してパラメーター操作を行なっています。

普段のパッチや、シンセで音作りをする際にもこれらCVスケーリングに関する概要を掴んでいると、使用するモジュールやパッチの選択肢が大きく広がります。マニアックな話ですが役立つものになれば幸いです。

以下の説明を続けるにあたり、事前に知っておくとよりわかりやすくなる用語を記載します。

正電圧(+)/負電圧(-)

シンセのパラメーターは全て電圧の高い/低いによって外部からコントロールします。

0Vを基準に、それよりも大きなものは正電圧と呼びます。+nVの数字が大きくなるほど、高い電圧になります。

0Vより低いものは負電圧と呼びます。-nVの数字が大きくなるほど、低い電圧になります。

直流(DC)/交流(AC)

電圧の高さが一定で変化をしないものを直流(DC)と呼びます。

電圧の高さが変化をするものを交流(AC)と呼びます。シンセでこの用語を使用する場合は変化が周期的/非周期的であるかはあまり問いません。

バイポーラ/ユニポーラ

電圧変化の幅が正負の範囲をカバーする場合はバイポーラ、正の範囲のみの場合はユニポーラと呼びます。

1.アッテネート

アッテネートとは入力した信号を減衰(小さく)して出力する機能です。

実際の動きは掛け算/割り算のイメージで考えるとわかりやすいと思います。入力したものをx0 ~ x1.0の倍率(スケール)で減衰をします。

あくまで減衰の機能のみなので、増幅はできません。

CVだけでなく、ミキサーの各チャンネルのボリュームなど、オーディオ信号を小さくすることもアッテネートとして捉えることができます。

左のグラフは入力した電圧がx1倍(等倍)、x0.5倍(半分)、0.25倍(1/4)ににアッテネートした際、出力電圧がどのようになるかのグラフです。例えば4Vの電圧を入力した場合は、等倍で4V、半分で2V、1/4で1V、例えば10Vの電圧を入力した場合は10V、5V、2.5Vの電圧が出力されます。これを見ると掛け算のイメージがしやすいと思います。掛け算であることは負の電圧を入力しても、LFOなどの変化する電圧を入力しても変わりありません。

主な目的

  • 変化の幅が大きすぎる信号を減衰してちょうどよい状態にしたい。

  • 出力信号そのままをパッチした場合、受け手側の入力でクリップしてしまう。

関連製品

2hp | Trim

Trimは、2チャンネルのパッシブ・アッテネーターです。オーディオ、またCVを問わず信号の振幅を減衰(アッテネート)します。

Doepfer - A-183-5 Quad Attenuator

シンプルな4chのアッテネーターです。小型のモジュールにはアッテネーターがないCV入力が多いので、こういったパッシブアッテネーターは非常に便利です。類似製品に A-183-1 があり、こちらは2chのアッテネーターです。パッシブのモジュールなのでケースにマウントせず使用することも可能です。

Hikari Instruments - Atten/Mixer

アッテネーター、ミキサー、CVソース、ミュート等が一つになったモジュールです。 1-4chはパッチによりMix Outへの結線から切り離すと独立したアッテネーターとして使用可能、入力にパッチしない場合はCVソース(オフセット電圧源 )としても使用可能です。アイデア次第でモジュール内の機能を分解して利用できるのはモジュラーシンセの面白みの一つですね。

2.オフセット

オフセットは入力した信号にある一定の電圧をプラス、もしくはマイナスして電圧変化の基準地点を持ち上げる、下げる働きを持ちます。

これは入力した信号に対して電圧を足し算/引き算するイメージです。

例えば-5-+5Vの範囲(バイポーラ)で変化するLFO+5Vのオフセットを加えると、0V ~ +10Vの範囲(ユニポーラ)のLFOが出力されます。

一番に身近な例を挙げますとオクターブチェンジ、トランスポーズはVCOのCV入力にオフセットを送ることで実現しています。+1Vの電圧をオフセットしてやれば1オクターブ上昇、-7/12Vを送ることで-7セミトーン下がるというようなイメージです。Precision Adderやミキサーを使用して、アルペジオシーケンスをトランスポーズするような使い方もオフセットです。

 

一つ注意点があり、ユーロラックで出力できるCVの電圧レンジは約±10Vまでです。

これは電源電圧と回路の都合によるもので、全てのモジュールにおいて共通です。

オフセットをして±10Vの電圧を超えた場合はそれ以上それ以下の電圧になることはなく、最大電圧でクリップします。

主な目的

  • 出力側と入力側それぞれの使用する電圧レンジが異なる
  • 信号の変化幅はそのままに、変化のかかる箇所をずらしたい
  • トランスポーズや移調、急激なテンポチェンジなどを即時正確に行う

関連商品

2hp | DC

DCは、オフセット電圧ジェネレーターです。それぞれ異なる出力レンジをもつ、3つのオフセット電圧を生成します。 CV入力のみをもつモジュールに接続することでノブによるマニュアル操作の追加、またミキサーと共に使用することでCV信号のオフセット電圧源として機能させるのに最適です。

Doepfer - A-183-2 Offset / Attenuator / Polirizer

オフセット、アッテネーター、ポラライザーが一つになったモジュールです。ポラライザーは後述しますが、アッテネートして変化幅を調整し、オフセットを加えることができますのでモジュール間の電圧レベル調整にはこのモジュールさえあれば困ることはないであろうと思います。

Doepfer - A-185-2 Precision CV Adder

オクターブスイッチを外部化したような機能ですが、このようにオクターブや任意の電圧を足し算できるオフセットのモジュールであると解釈することができます。

3.インバート、ポラライズ、アッテヌバーター

これは掛け算の延長で、マイナスの掛け算も可能になったものがインバートとポラライズです。

インバートとポラライズはx -1 ~ x0 ~ x1と倍率(スケール)が可変し掛け算ができるイメージです。アッテネートと異なり電圧の反転、かつ減衰という操作ができます。これはアッテヌバーター(アッテネーター+インバーターの造語)とも言います。モジュールによってはCVの入力がすでにアッテヌバーターになっている場合もあります。

ゲート信号のON/OFFを反転させる場合には注意が必要です。単純に電圧を反転する場合は上述の通り0Vを中心に反転しますので、0-5Vのゲートの場合は-5V ~ 0Vの反転した信号に変換されます。この場合もインバートの後に+5Vでオフセットすると電圧変化範囲は同一でゲートのON/OFFのタイミングが反転する結果になります。ただしこのような場合はA-166のようなゲート用のインバーターを使う方が分かりやすいです。

以下のアイデアにおいても同様ですが、あくまで0Vを中心に反転するという点によく注意してください。

主な目的

  • 反転したエンベロープをVCAに送ることでコンプレッサーを作成

  •  LFOとVCAとを組み合わせることでオートパンを作成
  • ゲートやクロックを反転して裏拍や新たなリズムバリエーションを作成
  • アルペジオのCVシーケンスを反転し上昇、下降と2つのアルペジオを作成

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2hp | AVert

AVertは、2つのアッテヌバーター機能が搭載されたモジュールです。 各チャンネルには、入力信号をアッテネート(減衰)/インバート(反転)する機能が備わっています。 チャンネル1の信号はチャンネル2に内部結線されているため、1つの入力から2つの異なる出力信号を得ることができます。

Doepfer - A-133-2 Dual VC Polarizer

倍率を電圧制御可能なポラライザーです。可聴域のモジュレーションで使用しますとリングモジュレーターとしても動作します。VCAを持つことで電圧で倍率(スケール)をコントロール可能です。モジュレーションの振幅や正負を動的にコントロールできるのが魅力です。

Doepfer - A-166 Dual Logic Module

ゲートのインバーターを持ちますので、入力がハイの時はローに、ローの時はハイに変換してくれます。 2値的なハイ or ローの信号のみを扱いますが、CVを入力してもある閾値を境にハイとローに切り分けてくれます。

4.レベルシフター、アンプリファイアー

1~3まで説明をした各機能は±1倍までの倍率(スケール)のため、増幅の働きを持ちません。

CV信号を増幅したい時は増幅のモジュールを使いましょう。LFOやエンベロープの変化幅を大きくしたり、ゲート電圧レベルの変換などが行えます。

基本的には出力側のCVのレンジが入力側に対して小さいという状況はあまりないと思いますが、エンベロープフォロワーのCVやブレス、リボンなどセンサーのCVなど、フィジカルな操作をCVにしている場合は変化が微弱すぎかつ演奏方法を変えるわけにもいかず、というようなことはあると思います。

この変化幅を大きくするためにアンプのモジュールは有用です。

 

またユーロラックのゲートやクロックから外部のシンセを操作するときに、ゲート電圧の高さが足らない場合などもあります。(ARP 2600や、ヴィンテージのRoland製品など)こういった場合はレベルシフターが有用です。

特殊例ですが、BuchlaのピッチCV1.2V/Octのため1.2倍で増幅してやることで簡易なEuro to Buchlaコンバーターして使用可能です。

Buchlaパルスは少々特殊な仕様ですが、+10Vの電圧を送れば問題ないため、アンプもしくはレベルシフターでユーロラックのゲート信号を増幅すると良いでしょう。

プリアンプ系のモジュールも増幅器として使用できますが、オーディオ目的なので増幅レンジが広すぎてCV目的には使いづらいと思います。そしておそらく大半がACカップリングの仕様でありCVの増幅用途には向かない可能性があります。対にA-183-3で低レベルの信号(マイク、ギターなど)を増幅するのは増幅率が足らず難しいと思います。それぞれの目的に適したモジュールを使用しましょう。

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Doepfer - A-183-3 Amp

最大増幅率を1倍(=アッテネーター)、2倍、4倍とスイッチで大まかに設定し、ノブで微調整可能です。

Doepfer - A-183-4 Quad Level Shifter

ゲート電圧の電圧レベルを増幅します。上述の通りユーロラックで扱うよりも高い電圧を要求する機器との橋渡しとして使用できます。 バッファーとしての役割も持ちます。

5.各種機能が統合されたモジュール

1~4の各機能が統合されたモジュールも多数あります。それらはCVプロセッサーと呼ばれ、電圧の高さや幅の調整のみでなく複数の電圧ソースをミックス、フェードするなど様々な工夫が足されています。

LFOやエンベロープ、シーケンスのCVを混ぜ合わせて複雑なモジュレーションソースを作成したり、モジュール同士の電圧レベルの変換、調整を1つで担うことのできる非常に有用なモジュールでしょう。

シンセサイザーの基礎となるコンセプトは何よりも電圧操作であると思います。

パッチが直線的になっている、モジュールは揃っているがよりパッチのアイデアを膨らませたい、そんな場合はCVプロセッサーのモジュールをもう一度見直してみると新たな世界が広がるかもしれません。

Tiptop Audio - MISO

MIX、INVERT、SCALE、OFFSETの頭文字をとってMISO(味噌)です。これまでに説明をしてきたアッテヌバート(アッテネート、インバート)とオフセットを持ちます。CVのスケーリング目的はもちろんですが、ミックス機能やVCクロスフェードの機能も持ちますので、LFOやエンベロープを組み合わせて複雑なモジュレーション信号を作るといった使用方法も面白いでしょう。

Buchla & Tiptop Audio - Model 257t Dual Voltage Processor

(Va x K) + ((Vb x (1-M)) + (Vc x M)) + V offset = V_out という暗号のような数式がありますが大きく要素を分解していくとそこまで難しいものでもありません。アッテヌバーター、VCクロスフェード、オフセットと3つのセクションで各入力を処理する電圧プロセッサーモジュールです。

Make Noise - MATHS

エンベロープ、LFO、SLEW部分が目を引きますが、真ん中のCVミキサー部分があってこそ「MATHS」です。左右のファンクションジェネレーターとミックス可能なアッテヌバーター入力が2つあり、出力も単純な合計だけでなくOR回路でのミックス出力や、インバート出力があります。