Tokyo Festival of Modular 2019 イベントレポート

モジュラーシンセの祭典、Tokyo Festival of Modular とは?

2019年11月16日と17日に東京 渋谷 の Studio Mission および Contact Tokyo にて、モジュラーシンセサイザーの祭典「Tokyo Festival of Modular 2019」が開催されました。お昼から夕方までは展示会場 の Studio Mission で、世界中のモジュラーシンセメーカーが一堂に会した展示とワークショップ、夕方から深夜まではライヴ会場の Contact Tokyo でライヴイベントという2本立て。一日中モジュラーシンセの世界にどっぷりと浸かれる、シンセ好きにはたまらないイベントです。

2013年から行われている TFoM も今年で6年目、イベントが始まった当時は「一時的なブーム」として見られていたモジュラーシンセサイザーも年を重ねるごとに幅広く認知され、今ではソフトシンセやハードウェアのシンセと並ぶ存在となっています。TFoM が日本でのモジュラーシンセの普及に大きく貢献している事は言うまでもありません。年を重ねるごとに来客数や参加メーカーも増え、パワーアップしている TFoM 、手短ではありますがイベントレポートをお届けします。

出張モジュラーの壁!Five G / 福産起業ブース。

手前味噌で申し訳ありません!まずは当店 Five G と親会社である輸入代理店 福産起業ブースをご紹介させていただきます。毎回 Five G 名物の「モジュラーシンセの壁」をイベントへ持って行く事で話題にしていただいていますが、今回も壁を出張させました。

ユーロラックの始祖的存在である Doepfer をはじめ、Make Noise, Tiptop Audio, Mutable Instruments などなど、人気メーカーを中心の展示です。初めての壁に圧倒される方から、時間をかけてじっくりパッチを楽しむ上級者の方まで、幅広いお客様にお試しいただけました。

そしてモジュラーの壁は絶好のインスタ映えスポット!壁の前で写真を撮られるお客様も多くいらっしゃいました。

撤収の模様。フタをつけてケースを固定する金具を外せば準備おーけー!

余談ですが近年のモジュラーの壁は Doepfer の A-100 Monster Case シリーズを使用しており、フタをすればすぐに持ち出すことができるので大変重宝しています。店頭から運び出し、会場での設営、撤収、そして店頭での再設置がとてもスムーズです。以前は Doepfer A-100 G6U ケースを大量に使用していたのですが、その頃と比べると手間も時間も体力も節約されて圧倒的に楽ですね。大規模なモジュラーシステムをお考えの方、よろしければご参考に。(商品アピールも忘れませんよ!)

イベントで日本初登場の新製品、Buchla 208C / Easel Command。ユーロラックの RED PANEL シリーズ

Buchla ファン憧れの Skylab システムです。
初お目見えの 208C / Easel Command

ハイエンドシステムである Skylab の他に、今回のイベントで初登場だった Buchla の新製品。まず 208C および Easel Command は同社を代表するポータブル・モジュラーシステム「Music Easel」のコアとなる 208 のマイナーアップデート・バージョン。208C は同社の 200E モジュラーシリーズのケースにマウントして使用できる、モジュール単品の製品。その 208C を MIDI 付きのテーブルトップ筐体に収めたのが Easel Command です。特に Easel Command は Buchla 直販のプレオーダーで$2,999(2019年11月時点)という、Buchla シンセとしては手を出しやすい価格であり以前から注目を集めている製品です。日本での発売時期と価格は現時点で未定ですが、発売がとても楽しみな製品ですね。

RED PANEL シリーズは同社のクラシック・システムである 100 シリーズをユーロラック・モジュールへ落とし込んだ製品。太くて味わいのあるサウンドのオシレーター、独特なシェイプのファンクション・ジェネレーターなど6種類がラインナップ。

Moog シンセの新製品、Matriarch が登場。

Moog のセミモジュラーシンセの最上位機種として発売が待たれている Matriarch が展示されていました!大好評発売中のセミモジュラーシンセ Grandmother の上位機種にあたる製品ですがモノフォニック、デュオフォニック、4音パラフォニックで使え、音源周りではVCOが3発、ステレオフィルター、ステレオディレイが搭載されていたりと大幅にパワーアップ!もちろんパッチポイントも大幅に増えています。特にステレオで使用できるセクションがあるのがこのシンセの大きなポイントです。左右にゆわんゆわんとフィルターを揺らしてディレイで飛ばすのが楽しい!

ちなみにこのシンセの読み方ですが「マトリアーチ」かと思っていたら、代理店の KORG さんでは「メイトリアーク」と呼んでいるそう。日本であまり馴染みのない単語だけにちょっと混乱してしまいますね。Matriarch は「女家長、女族長」という意味らしいです。上位機種というだけあって Grandmother (おばあちゃん)よりも偉そうです!

伝説の EMS Synthi AKS からインスパイアされた Erica Synths SYNTRX。Pico シリーズモジュールが1台に!PICO SYSTEM III

ラトビアのシンセメーカー Erica Synths ブースに展示されていた SYNTRX。シンセ好きなら一度はその姿を写真などで見たことがある伝説的なシンセの一つ、EMS Synthi AKS からインスパイアされたシンセです。機能はもちろんパネルのレイアウトやノブやジョイスティックの形状、VUメーターや左右にスピーカーを内蔵している点など Synthi に非常に近く、またレトロなパネルカラーとサイドウッドも電子楽器としての色気を醸しています。

Synthi の最大の特徴とも言えるモジュレーション・マトリクスは、オリジナルはマトリクスへピンを一本ずつ刺してパッチしていくところを、ピンを刺す代わりに2つのノブを使用してパッチする座標を LED で指定するようになっています。このパッチはセーブとリコールが可能で現代的な仕様になっていますね。(ピンを無くしてしまう心配なし!)非常にそそられる1台でした。

宮地楽器のブースでは Erica Synths の人気シリーズ、PICO シリーズをまとめた PICO SYSTEM III が展示されていました。遠くから見ると見慣れた PICO シリーズをケースへ詰めた様に見えますが、パネルが全部1つに繋がっている1台のセミモジュラーシンセです。この小さなボディに13モジュール分の機能が詰まっており、非常に多彩な音作りが楽しめます。

大きな特徴としてパネルの左側のスロットへ付属のボイスカードを刺すと、一瞬にして刺したカードへプログラムされたプリセットに切り替わる点。付属のプリセットカードの他にユーザーがDIYしてオリジナルのプリセットを組めるボイスカードも付属するそうです。ファミコンやゲームボーイなどレトロゲーム機みたいでそそられますねぇ!価格はモジュールとケースを単品で揃えるのに比べて半額以下くらいとコスパも抜群!

次世代の注目メーカー、Ashun Sound Machines!

Ashun Sound Machines は香港に拠点を置く新しいシンセメーカー。発表以来、大きな注目を集めているデジタル・ウェーブモーフィングシンセ Hydrasynth Keyboard を少し触ってみました。このての新しいシンセを触る際、私はまずプリセットをイニシャライズして素のオシレーターのサウンドやフィルターをチェックしていくのですが、この素のオシレーターの太いこと!ヘッドフォンで試奏したのですが胸のあたりまでビリビリくる感じでした。サウンドのエディットは、パネル左下の MODULE SELECT でブロック・ダイアグラム状に配置されているモジュール(機能)を選択し、パネル中央の MASTER CONTROL に表示されるそのモジュールのパラメーターを弄っていくという流れで、パラメーターが多いながら非常に明快です。音作りで一番重要なフィルターはいつでもアクセスできるようにパネル右上に配置されています。ツマミは最近の他のシンセと比べて大きくて回し心地が良く、パラメーターの変化の密度が高いこともあって非常に気持ち良いです。プリセットはこのシンセの機能を最大限に生かしたベースやリードなどのモノフォニック系サウンドから複雑に広がるアトモスフィア系パッドまで多彩、ポリフォニック・アフタータッチを活かしたプリセットが多くを占めていました。

コントロール周りで最大の特徴であるポリフォニック・アフタータッチは非常に感度が良く、程よい力加減で効かせられるチューニングです。また操作しやすい形状のピッチベンドとモジュレーション・ホイール、鍵盤上側の長いリボンコントローラー、パネル上に大きく配置されているアルペジエーターなど、プレイアビリティの面でも非常に強いこだわりが伺えます。難点があるとすれば49鍵盤のシンセながら10Kgという、本体サイズからするとかなり重く感じてしまう重量です。しかしポリフォニック・アフタータッチを活用した演奏となると、通常のキーボード演奏と比べると本体へ伝わる力が大きくなり、半端な本体重量だとぐらついてしまいます。そう考えるとこの重量にも納得がいきますね。

Hydrasynth は鍵盤の代わりに24個のパッドを搭載したテーブルトップ/ラックバージョンもあります。こちらのパッドもポリフォニック・アフタータッチ対応。キーボードプレイより打ち込みメインの方にはこちらのバージョンも良いですね。

多くのシンセファンの間で「良い音」の代名詞とされてきた「アナログ」という言葉。このシンセがキャッチコピーとして掲げている「DIGITAL IS THE NEW ANALOG」の意味がなんとなく分かりました。

Teenage Engineering はDIYモジュラーシンセ Pocket Operator Modular シリーズを展示!

OP-1やOP-Z、Pocket Operator シリーズでおなじみの Teenage Engineering は Pocket Operator Modular シリーズを展示。日本国内ではまだ Teenage のサイトからの直販でしか入手できないため、実際に触れる機会は貴重でした。説明書通りの手順を追えば誰でも組み立てることができるDIYモジュラーシンセです。自分でシンセを組み立てる楽しみ、そして自分で組み立てたシンセでサウンドを作る楽しみが味わえます。

プレゼントにも最適な小さカワイイDIYデジタルシンセ、KORG Nu:Tekt NTS-1 digital KIT!

自分で組み立てるDIYシンセはKORGも出していました。Nu:Tekt NTS-1 digital KIT ははんだ付け不要で簡単に組み立てる事ができる、ポケットサイズのデジタルシンセ。サウンドは非常にハイファイでライヴや制作にも十分使えるクオリティです。prologue や minilogue xd にインスパイアされたオシレーターだけでなく、logue SDKのために作られたカスタム・オシレーターまで読み込むことが可能!小さくてもかなり本格的な内容です。そして店頭販売価格1万円ちょっとと非常にお求めやすい価格!プレゼントにも最適です。

アナログドラムシンセのニューカマー!The Division Department 01/IV!

ヨーロッパとアジアにそれぞれ居住する、たった2人のメンバーだけで運営している新しいシンセメーカー The Division Department。初の製品となる 01/IV DRUM SYNTH は4ch アナログドラムシンセです。全く同じシンセドラムが4ch搭載されており、どのチャンネルでもキック、スネア、ハット、タム、ベースラインなど様々なサウンドを生み出せます。アナログドラムというと過去の偉大なドラムマシンをオマージュした物や、オリジナリティはあるもののクセが強くて使いづらい物もありますが、この01/IVはそのどちらにも当てはまらず、「正統的」でクセが無く、かつ「オリジナリティ」のあるサウンドという印象でした。サイトの説明文には「伝説的なドラムマシンyやドラムシンセからの遺伝子を継承している」とありますが、それらを取り入れつつも、ただのオマージュではない一つ上の領域に達しています。これは今後トラックメーカーの手元に置かれる定番ドラムシンセになる予感がしますね。

破竹の勢いで新製品を次々にリリースする Behringer!

今年はあの Behringer も TFoM に参戦。近年の Behringer は昔からのミキサーやレコーディング関連製品だけでなく、アナログシンセも多数開発しています。創設者の Uri Behringer はもともとシンセサイザーが大好きで、彼の強い意向で様々なアナログシンセを次々にリリースしています。過去の名機からインスパイアされた物が多いですがそれだけでは無く、発売中の NEUTRON や近日登場予定の CRAVE といった自社オリジナルのアナログシンセまで開発しています。ブースでは常に誰かが試奏しており、その注目度の高さが伺えました。

オレンジ色のボディが印象的な CRAVE は Behringer オリジナルのモノフォニック・アナログシンセ。オシレーターは伝説的なヴィンテージシンセでも使用されている3340チップを使用、フィルターは伝統的なラダータイプのフィルターを搭載しておりクラシックなサウンドです。パネルのツマミは少ないものの、多数のパッチポイントを使った音作りが楽しめます。最近の Behringer シンセに多く搭載されているものと同じステップ・シーケンサーを搭載しているので、ドラムマシンなどとの同期演奏も楽しめます。日本国内で実売価格2万円前後というのですから驚きです。

Pro-1 はポリシンセの王様 Sequential Prophet-5の弟分である PRO-ONE をオマージュしたモノフォニック・アナログシンセ。クラシックなあのサウンドたちを再現できます。こちらは国内の実売価格4万円前後。マジですか…

K-2 は KORG MS-20 をオマージュしたモノフォニック・アナログシンセ。オリジナルのフィルターも相当にエグいですが、K-2はさらに2割増しくらいでフィルターがエグくなっているように聞こえます。元々がパッチシンセの入門機種として開発されただけあって、K-2も入門に最適な一台だと思います。こちらも国内の実売価格4万円前後。お安い!

RD-8 はご覧の通りあの伝説的アナログ・ドラムマシン 808 をオマージュしたアナログ・ドラムマシンです。決して808と全く同じ音が出るわけではありませんが、各パートは808をお手本としているので似たサウンドを演奏でき、Wave Designer 機能やアナログフィルターを搭載しライヴプレイにも強い一台です。最近のドラムマシンとしては本体サイズが大きくて操作がしやすいのも好印象です。こちらも国内の実売価格4万円前後。う、嘘でしょ…?

Behringer というとやはり昔から「安かろう、悪かろう」というイメージが根強いと思います。しかしシンセサイザーのラインナップを一通り触ってみるとそのイメージは吹き飛ぶと思います。「素晴らしい製品をお求め安い価格でユーザーに届けたい。」そんな思いがひしひしと伝わってきます。Behringer は向こう数年で400種類ものシンセサイザーをリリースする計画らしいので、来年の TFoM では Behringer のモジュラーシンセが展示されているかもしれませんね。


もちろんこの他にも多数のメーカーが展示やワークショップ、夜はアーティストさんたちによるライブが行われていたのですが、盛りだくさん過ぎてとてもとてもここだけでは紹介しきれません。盛りだくさんの Tokyo Festival of Modular レポートでした。来年も楽しみですね!